real-estate

不動産コラム

1億円の新築一棟、利益はなぜ消える?金利上昇で開発案件が厳しくなる仕組み

1億円の新築一棟、利益はなぜ消える?金利上昇で開発案件が厳しくなる仕組み

執筆:TESキャピタル編集部 | 監修:橋本裕介

建物は予定どおり完成した。 家賃も想定どおり入った。 それなのに、利益だけが消えていた——。

金利上昇局面の不動産開発では、こうしたことが実際に起こり得ます。しかも、建物の欠陥や空室が原因ではありません。売主のあずかり知らないところで、買主側の「計算式」が変わってしまうからです。

「総事業費が1億円から2億円程度なら、大型開発ほど危なくない」と考える方は少なくありません。しかし、開発案件のリスクは事業費の絶対額では決まりません。重要なのは、

総事業費に対して、どれだけの利益を見込んでいるか その利益が、金利・建築費・売却価格の変化に耐えられるか

という点です。

2026年7月31日の金融政策決定会合で、日本銀行は無担保コールレートを1.0%程度で推移させる方針を維持しました。少なくとも「今後もゼロ金利に近い環境が続く」という前提だけで不動産事業を組み立てることは、難しくなっています。

本記事では、総事業費1億円の新築一棟をモデルに、予定利益1,000万円が音もなく消えていく過程を、順を追って計算していきます。

この記事の要点

  • 総事業費1億円・年間純収益550万円・出口利回り5%なら、理論上の売却価格は1億1,000万円、予定利益は1,000万円です(説明用の仮定です)
  • 買主が求める利回りが5%から5.5%へ上がると、理論価格は1億円ちょうどまで下がり、予定利益はゼロになります
  • 利回り0.5ポイントの上昇で、価格は約9.1%下がります。「0.5%の変化」ではありません
  • 実際には建築費の上昇、金利負担、工期延長が同時に重なる可能性があります
  • 市場の変調は、平均価格の下落より先に「売れにくさ」として表れることがあります

1|舞台は、総事業費1億円の新築一棟

まず、計算の舞台を用意します。以下は仕組みを説明するための仮定です。

項目金額・条件
土地代・取得費4,000万円
建築費5,000万円
設計・融資・税金・販売費・予備費等1,000万円
総事業費1億円
完成後の年間純収益(NOI)550万円
想定する出口利回り5.0%
想定売却価格1億1,000万円
予定利益1,000万円

年間純収益(NOI)とは、賃料などの収入から、管理費、修繕費、固定資産税、保険料、空室損失といった運営費用を差し引いた収益です。ローンの元金返済や支払利息は、通常このNOIには含めません。

予定利益1,000万円は、一般的な開発利益の相場を示すものではなく、

売却価格1億1,000万円 - 総事業費1億円 = 予定利益1,000万円

という説明用のモデルです。総事業費に対する利益率は10%。数字だけ見れば、堅実な計画に見えます。

ここから、この1,000万円がどう消えるかを見ていきます。


2|収益不動産の価格は「割り算」で決まる

収益不動産の価格は、簡略化すると次の割り算で考えることができます。

不動産価格 = 年間純収益 ÷ 買主が求める利回り

国土交通省の不動産鑑定評価基準でも、直接還元法として、収益価格を「一期間の純収益÷還元利回り」で求める考え方が示されています。還元利回りは、金融市場の運用利回りや借入金・自己資金の調達条件と密接に関係するとされています。

今回の例に当てはめると、

550万円 ÷ 5.0% = 1億1,000万円

総事業費1億円との差額、1,000万円が予定利益です。

注目していただきたいのは、この式に建物の品質も、売主の努力も、一切登場しないことです。分子(純収益)と分母(利回り)、この2つの数字だけで価格が決まります。

そして金利上昇局面で動くのは、売主がコントロールできない側——分母のほうです。


3|0.5ポイントの上昇で、利益1,000万円が消える

建物も賃料も何ひとつ変わらないまま、買主が求める利回りだけが動いた場合を計算してみます。

買主が求める利回り理論上の売却価格総事業費1億円との差
5.00%1億1,000万円+1,000万円
5.25%約1億476万円+約476万円
5.50%1億円0円
6.00%約9,167万円▲約833万円

要求利回りが5.5%になった時点で、売却価格は総事業費と同額の1億円。予定利益1,000万円は、1円も残らず消えます。

ここで注意したいのが、「利回りが0.5%上がる」という表現です。正確には5.0%から5.5%への0.5ポイント(50ベーシスポイント)の上昇であり、このとき売却価格は0.5%ではなく、

1億1,000万円 → 1億円 = 約9.1%の価格低下

となります。分母のわずかな変化が、価格には約18倍の振れ幅で跳ね返る——これが収益不動産の価格構造です。

繰り返しますが、建物の品質が落ちたわけでも、家賃が下がったわけでもありません。変わったのは、買主がその収益に求める利回りだけです。

これが、金利上昇局面で開発案件の出口が厳しくなる基本構造です。


4|なぜ買主は、以前より高い利回りを求めるのか

金利が上がったからといって、すべての物件の要求利回りが機械的に同じ幅だけ上がるわけではありません。立地、築年数、賃貸需要、融資条件、投資家の資金調達方法によって影響は異なります。

ただし、金利上昇局面の買主側には、次の変化が生じやすくなります。

借入後の手残りが減る

買主の借入金利が上がれば、同じ価格・同じ家賃の物件でも支払利息が増え、元利返済後のキャッシュフローが減ります。

借入可能額が下がる

毎月返済できる金額が同じでも、適用金利が高くなれば借りられる元金は小さくなります。売主が1億1,000万円で売りたくても、買主がその金額を借りられるとは限りません。

不動産に求める「上乗せ」が大きくなる

預金や国債など、不動産以外の運用利回りが上がると、投資家は不動産にも相応の利回りを求めやすくなります。空室、滞納、修繕、災害、売却までの時間——こうしたリスクを引き受ける以上、安全資産との差が小さすぎる物件は買いにくくなります。

金融機関の目が厳しくなる

金融機関が返済余力や担保評価を慎重に見るようになれば、買主の自己資金負担が増えます。購入できる買主の数そのものが減り、価格に下方圧力がかかります。

つまり、要求利回りの上昇とは「買主が強気になった」のではなく、買主自身の資金調達環境が変わった結果なのです。


5|出口が下がる間に、入口も上がる

開発案件の難しさは、売却価格の下振れだけではありません。出口が下がるのと同じ時期に、作る側の費用も上がることがある点です。

当初の予定利益1,000万円に、決して極端とはいえない変化が3つ重なった場合を計算します。

変化利益への影響
出口利回りが5.0%→5.25%へ上昇▲約524万円
建築費5,000万円が5%上昇▲250万円
平均借入残高8,000万円の金利が1ポイント上昇▲年間最大80万円
残る予定利益約146万円

この時点では、まだ不動産の「暴落」は何も起きていません。出口利回りが0.25ポイント、建築費が5%、借入金利が1ポイント——それぞれ単独では珍しくない変化です。それでも、予定利益の約85%が消えます。

そして残り146万円の利益に対して、現実の開発では次のような費用が待ち構えています。

  • 工期延長中の支払利息、現場管理費
  • 設計変更・追加工事、地盤改良費、近隣対応費
  • 完成後の空室期間と入居募集の広告料
  • 売却期間中の固定資産税
  • 販売価格の追加値下げ

予定利益が146万円しか残っていない案件は、追加工事1件、売却遅延数か月で赤字に転落し得ます。


6|「売れなければ持てばいい」が通用しない理由

想定価格で売れなかった場合、「賃貸物件として長期保有すればよい」と考える方もいます。たしかに、それができる案件もあります。

問題は、保有への切り替えは無条件ではないことです。切り替えるには、保有後の収支が成立している必要があります。少なくとも次の項目の確認が必要です。

  • 満室想定ではなく、一定の空室率を反映した賃料収入
  • 新築プレミアムがなくなった後の賃料
  • 管理費、修繕費、固定資産税、保険料、募集費用、原状回復費
  • 借入金の元利返済額と、金利上昇後の年間収支
  • 借換え時の融資期間と金利
  • 手元資金で何か月の赤字を補えるか

特に見落としやすいのが、新築時の賃料です。新築直後は周辺の築浅・中古物件より高い賃料で決まることがありますが、退去後の再募集では、その物件はもう新築ではありません。新築時の最高賃料だけで計画を組んでいると、数年後にNOIが下がり、売却価格も借換え評価も連動して下がる可能性があります。

売れなければ保有できる

のではなく、

保守的な賃料と金利でも返済できる場合に限って、保有へ切り替えられる

と考えるべきです。


7|1億円でも2億円でも、構造は同じ

「うちの案件は2億円だから」「1億円程度の小規模だから」——残念ながら、規模はこの構造から守ってくれません。

総事業費2億円、年間純収益1,100万円、出口利回り5%の案件なら、売却価格は2億2,000万円、予定利益は2,000万円です。出口利回りが5.5%へ上がると、

1,100万円 ÷ 5.5% = 2億円

予定利益2,000万円は、1億円の案件とまったく同じ理屈で消えます。利益率と借入割合が同じであれば、利回り変化への感応度も基本的に同じだからです。

むしろ小規模な事業者ほど、1,000万〜2,000万円の損失が会社の年間利益や自己資金に対して重くのしかかります。見るべきは案件の規模ではなく、会社の財務体力に対して、どれだけのリスクを取っているかです。


8|暴落より先に来るのは「売れにくさ」

市場が変化しても、売出価格が翌日から一斉に下がるわけではありません。初期には、売主が従来の価格を維持しようとする一方で、買主の融資条件や収益計算が先に変わります。

その結果、一般的には次のような順番で変化が表れることがあります。

  1. 問い合わせが減る
  2. 買主の融資審査に時間がかかる
  3. 指値(値下げ交渉)が大きくなる
  4. 売却期間が延びる
  5. 成約件数が減る
  6. 返済期限や資金繰りを抱える案件から値下げが始まる
  7. 安い成約事例が、周辺の査定価格に影響する

つまり、統計上の平均価格はしばらく動きません。「平均価格がまだ下がっていない=市場への影響がない」とは限らないのです。

ここで開発案件に特有の弱点が効いてきます。新築一棟の開発では、完成後の返済期限が決まっていたり、次の土地仕入れのために資金を回収する必要があったりします。長く待てない売主から、価格を下げて現金化していく——その成約事例が周辺の融資評価や売却査定へ波及していきます。

当社の既存記事でも、不動産市場では平均価格より先に、問い合わせ・融資審査・売却期間・成約件数に変化が表れる可能性を整理しています。


9|厳しくなりやすい案件、耐えやすい案件

同じ「1億円の新築一棟」でも、環境変化への耐久力は案件によってまったく異なります。対比すると次のとおりです。

確認項目厳しくなりやすい案件耐えやすい案件
土地高値で取得相場より低く取得
建築費請負金額が未確定固定済み+別枠の予備費
予定利益総事業費の10%前後厚めに確保
借入高い借入割合×変動金利自己資金が厚い
賃料前提新築最高値×満室想定周辺築浅水準×空室率込み
出口利回り低利回りでの売却が前提保守的に設定
金利耐性上昇で収支が崩れる1ポイント上がっても収支が残る
出口短期の一棟売却のみ一棟売却・長期保有・土地売却など複数

特に注意したいのは、

想定した価格で売れなければ、融資を返済できない案件

です。出口が売却時の市況に完全に依存しており、保有へ切り替える余地がないためです。

新築一棟の開発そのものが悪いのではありません。問題は、

高い土地代 × 高い建築費 × 高い借入割合 × 低い出口利回り × 薄い予定利益

という条件の掛け算です。掛け算ですから、どれか一つを外すだけでも耐久力は変わります。


10|事業計画で確認したい7項目

新築一棟の開発・購入を検討する際は、少なくとも次の7項目を確認します。いずれも電卓とスプレッドシートでできる作業です。

1.安定稼働後のNOI

満室時の賃料ではなく、空室、管理費、固定資産税、保険、修繕、募集費用を差し引いた年間純収益を計算します。

2.新築プレミアム後の賃料

完成直後の募集賃料ではなく、数年後に退去が発生した場合の再募集賃料で収支を見ます。

3.建築費の確定範囲

請負金額に含まれていない工事——地盤改良、外構、引込工事、設計変更——を洗い出します。

4.金利上昇後の支払額

現在の借入金利に0.5ポイント、1.0ポイント、1.5ポイントを加えた場合の支払利息と年間収支を計算します。

5.出口利回り上昇後の売却価格

当初の出口利回りに加え、0.25ポイント、0.5ポイント、1.0ポイント上昇した場合の売却価格を確認します。

6.売却が6か月〜1年遅れた場合の資金

支払利息、固定資産税、管理費、募集費用を含め、売却が遅れても資金が不足しないかを確認します。

7.売れなかった場合の保有収支

元利返済後のキャッシュフローと返済余力を確認します。売却しなくても保有できる計画であれば、相場が悪い時期に無理な値下げを避けやすくなります。


まとめ|不動産価格が下がる前に、開発利益が消える

総事業費1億円、年間純収益550万円、出口利回り5%の新築一棟なら、理論上の売却価格は1億1,000万円、予定利益は1,000万円です。

しかし、買主が求める利回りが5.5%へ上がるだけで、売却価格は1億円まで下がり、予定利益は消えます。そこに建築費の上昇、借入金利の上昇、工期延長、賃料の下振れ、売却期間の長期化が重なれば、赤字の可能性もあります。

重要なのは、「不動産が暴落するかどうか」を当てることではありません。

建築費が5%上がった場合 借入金利が1ポイント上がった場合 出口利回りが0.5ポイント上がった場合 売却が1年遅れた場合

を現在の事業計画に入れ、それでも資金が不足しないかを確認することです。

小規模だから安全なのではありません。 小さな前提のズレで利益が消えない設計になっているかどうかが、開発案件の安全性を分けます。


よくある質問

Q.予定利益1,000万円は、一般的な開発利益の相場ですか?

いいえ。本記事の1,000万円は、総事業費1億円・売却価格1億1,000万円とした説明用の仮定です。実際の予定利益は、土地取得費、建築費、設計費、融資費用、税金、販売費、予備費をすべて計上した総事業費と、根拠のある想定売却価格との差額で計算する必要があります。

Q.利回りが0.5ポイント上がるだけで、本当に利益が消えるのですか?

年間純収益550万円が変わらない場合、要求利回りが5%から5.5%へ上がると、理論価格は1億1,000万円から1億円へ下がります。0.5ポイントの利回り上昇に対して、価格は約9.1%下がる計算です。ただし、実際の売却価格は立地、建物、賃料、融資、取引事例など複数の要因で決まります。

Q.1億〜2億円程度の小規模案件なら、影響は限定的ですか?

案件規模だけでは判断できません。総事業費に対する利益率、借入割合、出口利回り、建築費の余裕、会社の自己資金によって影響は変わります。小規模な事業者の場合、絶対額では小さく見える損失でも、会社の財務に大きく影響することがあります。

Q.今後、新築一棟は買わない方がよいのでしょうか?

一律には判断できません。土地の取得価格、実際の賃料、運営費、借入条件、建築費、出口価格によって結果は異なります。重要なのは、販売時の想定収支だけでなく、金利上昇、空室、賃料下落、出口利回り上昇を反映した複数のケースを比較することです。


投資用不動産の保有・出口を整理したい方へ

TESキャピタルでは、投資用不動産について、現在の収支、賃料、管理費、修繕費、借入条件、ローン残高、想定売却価格を確認し、保有継続、管理改善、売却などの選択肢を整理しています。

  • 現在の物件を持ち続けた場合の収支を確認したい
  • 金利上昇後の返済負担を計算したい
  • 現在の売却価格とローン残高を比較したい
  • 新築・築浅物件の出口を見直したい
  • 売却と保有のどちらが適切か整理したい

物件や所有者の状況によって、確認すべき内容は異なります。まずは契約書、返済予定表、賃料明細、管理費・修繕費の資料をそろえ、現在地を把握することが重要です。

投資用不動産の売却・出口戦略サポート https://tescapital.net/investment-support/


関連記事

金利上昇で不動産投資はどう変わるのか?知らないと損する3つの本質 金利上昇によるキャッシュフロー、物件価格、融資条件への基本的な影響を整理しています。 https://tescapital.net/media/2026/03/27/5872/

日米協調の為替介入で不動産はどうなる?日銀政策とオーナーの対応 為替、追加利上げ、買主の借入可能額、売却流動性の関係を整理しています。 https://tescapital.net/media/2026/08/17/6976/


注意事項・免責

※本記事の1億円の開発案件、年間純収益550万円、出口利回り5%等の数字は、仕組みを説明するための仮定であり、実在する特定の案件や一般的な利益水準を示すものではありません。

※実際の事業収支、建築費、融資条件、賃料、売却価格、税金等は、物件、地域、契約、事業者の状況によって異なります。

※株式会社TESキャピタルは、金融商品の販売・勧誘、個別銘柄等に関する投資助言、保険商品の募集・勧誘、法律・税務の個別判断を行っておりません。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事情に応じた判断については、必要に応じて金融機関、建築士、税理士、弁護士等の専門家へご確認ください。