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不動産コラム

第三次世界大戦勃発!?
21世紀の逆オイルショックがもたらすもの

第三次世界大戦勃発!? 21世紀の逆オイルショックがもたらすもの
WTI原油先物チャート(出典:Bloomberg)

今月20日(日本時間21日)、衝撃的なニュースがマーケットにもたらされました。

原油価格の主要な指標の1つであるWTI原油先物価格が歴史上初めてマイナス価格を記録しました。

新型コロナウィルスの影響で各国でロックダウン(都市封鎖)が実行され、人々の移動が制限されました。その結果、自動車、電車、船舶の稼働が低下。特に大量の燃料を使う航空業界は大打撃を受けています。

このように世界的に原油需要は激減しており、つい先日、産油各国は世界全体の供給量の1割となる過去最大規模となる減産に合意しました。

サウジアラビアを中心とする石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」は日本時間13日未明、9日に続いてふたたび緊急テレビ会議を開いた。暫定合意した日量1000万バレルの協調減産への参加に難色を示していたメキシコに配慮し、協調の規模を日量970万バレルに引き下げ最終合意した。(2020/4/13 日経新聞)

こうした産油国の努力にもかかわらず、先物価格(5月物)が史上初となる1バレル=マイナス37・63ドルを記録してしまいました。

これは産油国、特に生産量の多いアメリカ、サウジアラビア、ロシアにとっては大打撃です。(なお、これら3か国は1日当たりの原油生産量のトップ3にあたります。出典:BP Statistical Review of World Energy 2019)

今回はこうした各国の原油利権を巡る思惑、またこの『 逆オイルショック 』とでも呼ぶべき事象が戦争にまで発展する可能性について仮説検証していきたいと思います。

目次

21世紀の逆オイルショック

WTIスポット価格推移

WTI原油先物指標とは?

週明け20日の米ニューヨーク商業取引所で、原油価格の指標となる米国産WTI原油の先物価格(5月物)が1バレル=マイナス37・63ドルと、史上初めてマイナス価格で取引を終えた。

(2020/4/21 朝日新聞)

さて、まずは今回のマイナス価格の要因とWTIとはそもそも何かについて見ていきましょう。

原油価格がマイナスとはその名の通り、『 お金を払って原油を引き取ってもらう 』ということです。

原油需要の低下により、原油を保管する場所がだんだん無くなっていきます。

それでも生産は続いているので、結果お金を払って引き取ってもらう、という苦渋の決断をすることになってしまったのです。

石油タンクイメージ

今回のケースだと原油5月物の売買期限が4/21までだったので、投資家は投げ売りに走ったと考えられます。

実は最近だと不動産の世界でもこうしたマイナス価格で取引される、いわゆる『 負動産 』が地方のリゾート物件で発生していますが、詳しくはまた別の機会に書きたいと思います。

そしてWTIとは原油価格の代表的な指標であり、この他にヨーロッパ産の北海ブレント原油先物、中東産のドバイ原油スポット価格があり、一般的にこの3つが世界の3大原油指標と言われています。

なかでも、WTI原油先物指数は、取引量と市場参加者が圧倒的に多く、市場の流動性や透明性の高さから、世界経済の行方を占う上で重要な経済指標の1つにもなっています。

コロナショックで需要は低迷

国際エネルギー機関(IEA)は15日、2020年の世界の石油需要が前年比で日量930万バレル減るとの予測を発表した。

(2020/4/15 朝日新聞)

コロナショックの影響で世界的に原油需要が低迷しています。

国際エネルギー期間(IEA)は、4月は前年同月比2900万バレル減と、世界の生産量の3割に相当するかつてない規模の落ち込みを予測しています。

前述のように産油国は日量970万バレルの協調減産にこぎつけたばかりですが、現時点でも日量2000~3000万バレル供給過剰状態にあり、コロナウィルスの影響が長引けば、産油国はさらなる減産を迫られることになりそうです。

なお、この日量970万バレルの減産は、リーマンショック直後の2009年1月にOPECが実施した日量420万バレルの減産(出典:資源エネルギー庁)の2倍以上であり、実体経済へのダメージの深さが読み取れます。

原油価格および需要の低迷は様々な業界にダメージを与えています。

オーストラリアでは国内2位のシェアを誇るヴァージン・オーストラリア航空が破綻しました。

オーストラリアの航空会社ヴァージン・オーストラリア・ホールディングスは21日、任意管理手続き(日本の民事再生法に相当)に入ったと発表した。オーストラリアの大企業として、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によって経営破綻した第1号となった。(2020/4/21 BBC)

日本国内においてはANAが最終的な利益予想が71%減、JALも43%減と大幅な下方修正を発表しました。

航空便の減少は物流にも影響を与えています。

民間旅客機には機体下の貨物用スペース(ベリースペース)があり、従来は乗客の手荷物以外にも様々な物資を運搬していました。

しかし、飛ぶ機体が少なくなれば貨物スペースの総和は減少します。

これによりある区間では航空貨物運賃が以前の3倍に跳ね上がる事態となりました。 運搬コストの上昇はモノの価格上昇圧力になり、インフレにつながる可能性があります。

飛べない飛行機@羽田空港 出典:読売新聞

産油国の思惑

写真左から米トランプ大統領、サウジ・サルマン国王、露プーチン大統領

ここまで見てきたように、原油相場の下落、需要低下は産油国にとっては頭の痛いところです。

この章では産油国、とりわけ上位3か国である、アメリカ・サウジアラビア・ロシアにおける逆オイルショックの影響、および各国の思惑を探っていきたいと思います。

アメリカ

アメリカは元々19世紀から第二次世界大戦前後まで、世界最大の産油国でした。

今日のように中東の石油産業が発達したのは戦後の出来事です。

経済発展に伴いアメリカ国内では原油の需要が供給に追い付かなくなり、中東産原油に頼ることになります。

アメリカが再び世界最大の産油国かつ、余剰分を輸出できるようになったのは『 シェール革命 』のおかげです。

シェール革命とは、地中深くのシェール層から原油や天然ガスを取り出せるようになった技術革新を指します。それでも従来の工法よりコストが高いことがシェールオイルの弱点でした。

シェールオイル・ガスの埋蔵分布 出典:アメリカエネルギー情報局(EIA)

しかし、2003年のイラク戦争以降原油相場が上昇したおかげでビジネスとして成立するようになります。一般的にシェールオイルがビジネスとして成立する損益分岐点は原油相場が50ドル台以上の状態を指します(出典:ダラス連銀)

ここ数年は60ドル前後で推移していた原油相場ですが、今回の相場の急落により、シェールオイル関連企業が初の倒産、という事態が発生しています。

経営破綻したのはシェールオイルの開発や生産を手がける「ホワイティング・ペトロリアム」で、1日、日本の民事再生法にあたる連邦破産法第11条の適用を裁判所に申し立てました。

(2020/4/2 NHKより)

再選を目指すトランプ大統領としては原油相場の低迷により、国内のシェールオイル関連企業が連鎖破綻するのは避けたい事態なのです。

サウジアラビア

サウジアラビアでは戦後石油産業が急速に発達、最大の産油国として長いあいだ原油市場に降臨してきました。

しかし、経済の大部分を石油産業に依存することは危険なことに指導者たちも気が付いていました。

そこで近年、『 第2の建国 』として改革に邁進しているのが、現国王の息子のムハンマド皇太子です。

皇太子は『 ビジョン2030 』と称した改革のスローガンを発表、映画館や女性の自動車運転が解禁されたのもこうした改革の一例です。

石油資源にはそれほど恵まれてはいなかったものの、大きく発展したアラブ首長国連邦(UAE)のドバイが皇太子の目標なのかもしれません。

とはいえ、改革の元手となるのはオイルマネーであることに変わりはありません。サウジの狙いは原油マーケットでの市場シェア1位の奪還です。

原油相場が低迷すれば高コスト体質のアメリカ企業(主にシェールオイル関連企業)やロシア企業、そして宗派を巡って長年犬猿の仲である、イランがマーケットから締め出されます。

結果、サウジアラビアが最大のシェアを獲得、その後は自国の思うように相場をコントロールし、経済改革を実行する、これがサウジの魂胆だと私は考えています。

ムハンマド皇太子の掲げるビジョン2030(出典:日経新聞)

しかし、先日のWTI先物価格のマイナス価格を受けて、米トランプ大統領はサウジ産原油の輸入停止を検討、との報道がなされました(2020/4/21 日経新聞)

イランとの対立、国境を接するイエメンでは反政府勢力であるフーシ派武装勢力との戦い、じわじわと拡大する新型コロナウィルス、などの影もあり、サウジにとっては一筋縄ではいかない状況です。

ロシア

プーチン大統領の就任後、世界的なエネルギー需要の高まりから、世界最大の面積のおかげで豊富な天然資源を有するロシア経済は急成長しました。

プーチン大統領が目指すのはかつてアメリカと覇権を争い、世界第2の経済大国であったソ連の復活にあるのかもしれません。

それを象徴するのが2014年のクリミア併合です。

元々ウクライナ領であったクリミア半島は、ロシア系住民が以前から多い場所であり、そこに居住する新露派がウクライナからの分離独立を主張、クリミア共和国を建国します。

クリミア共和国はロシア連邦の一部となりました。 ロシアによる一方的なクリミア併合に当然世界は反発、欧米はロシアに対して経済制裁を発動し、それは現在も続いています。

出典:朝日新聞

ロシア経済は上図のようにエネルギー価格の依存度が高く、原油価格が上昇すると高成長、低迷すると低成長となります。

ここ数年、アメリカのシェール革命と欧米向けの輸出が制限された影響で、ロシアのエネルギー業界は窮地に立たされています。

いまのロシアは原油相場の低迷、経済制裁、そしてここ数日感染者が急増している新型コロナウィルス、とトリプルパンチのダメージを受けています。

苦境にあえぐロシアを救うためプーチン大統領はどう打ってでるのか? 6年前のように対外武力行使の可能性も決して無きにしも非ず、といったところでしょうか。

勢いづく中国と苦境に立たされる欧米

当初中国で感染が拡大した新型コロナウィルスですが、現在は小康状態を保っているようです。あくまで中国当局発表によるとですが、、

こうした中、感染源となった中国と初動対応でミスを犯したWHOに世界中から非難が集まっています。

中国外務省の趙立堅報道官は14日までに、新型コロナウイルスの問題に触れ、発生源は思い込まれているような湖北省武漢市ではなく米軍が持ち込んだ可能性があるとする見解をツイッターに投稿した。

(2020/3/14 CNN)

マイク・ポンぺオ(Mike Pompeo)米国務長官は22日、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」の流出源となった可能性があるとされている中国国内の研究所などへの査察を受け入れるよう中国に圧力をかけた。

(2020/4/23 AFP)

上記の報道のように新型コロナウィルスを巡る米中間の対立は、日ごとに増しているように感じます。

コロナショックに苦しむ米軍

米空母セオドア・ルーズベルト ※画像はWikipediaより

大規模クラスター(集団感染)となった、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスの件は記憶に新しいかと思いますが、同じ大型船舶である米軍の原子力空母セオドア・ルーズベルトでもクラスターが発生しました。

乗組員100名以上が感染し、死者も出ています。艦長は更迭され、空母は事実上稼働不能となってしまいました。

コロナウィルスを生物兵器としてみた場合、1発の銃弾も使用することなく、脅威となる空母を行動不能にしてしまうその効果は凄まじいの一言です。

これにより極東・西太平洋地域で稼働している空母は無くなり、台湾や尖閣諸島に対して挑発行動を繰り返す中国海軍にとっては朗報となってしまいました。

南シナ海での動き

出典:西日本新聞

中国は南シナ海に西沙諸島(パラセル諸島)の全域、南沙諸島(スプラトリー諸島)の一部を実効支配しており、滑走路を整備し軍事拠点化を進めてきました。

こうした中国の動きに対し、アメリカは『 航行の自由作戦 』としてB52爆撃機を飛行させたり、空母を巡回させたりしてきました。

各国が領有権を主張する南シナ海では、中国が実効支配を一段と強めている。同地域に新たな行政区を設けたほか、空母「遼寧」をはじめとする艦隊が軍事訓練を実施。東南アジア諸国連合(ASEAN)や米国が新型コロナウイルスへの対応に追われるなか、関係国との摩擦がますます激しくなりそうだ。

(2020/4/20 日経新聞)

ところが、欧米がコロナショックに苦しむ中、中国は南シナ海で勢いを増しています。

前述したように、この地域でのアメリカ海軍のプレゼンス(存在感)は低下しており、仮にいま中国が台湾や尖閣諸島に侵攻したら、あっという間に占領されることでしょう。

もちろんこうした可能性は低いですが、中国軍が『 その気になればやってやることはできる 』という状況は、日米欧としては決して看過できない状況でしょう。

新型コロナウィルスを巡っての米中間の舌戦がさらなる経済戦争を呼び、そこにエネルギー相場を巡る産油国の対立から、火種が中東やヨーロッパに飛び火する可能性は十分あり得ます。

今回のコロナショックは後々の歴史から振り返ると『 第三次世界大戦の前触れだった 』 と言われないことをを祈るばかりです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

第三次世界大戦が現実に起こる可能性は高くはありませんが、起こりうる可能性がある、ということはおわかりいただけたのではないでしょうか。

新型コロナウィルスがどこから、どのようにやってきたのか?に関してはまだまだ論争が続いています。

原油相場の混乱は過去には中東戦争、イラン革命、湾岸戦争、イラク戦争など多くの戦争と関連してきました。

どうしても現代の日本に暮らしていると平和ボケしてしまいがちです。

少し不安を煽る内容となってしまいましたが、世界で起きている『 不都合な真実 』から目を背けてしまっては自分の命、財産を守ることは難しくなってしまいます。

国際情勢を理解することで少しでも皆さんの中で危機意識が芽生えれば幸いです。

今回は以上となります。

最後までお読みいただきありがとうございました。