賃貸住宅のオーナーが建設・取得時に支払う消費税をめぐり、本来認められていない税の還付が控除ルールを悪用する形で不適切に行われているとして、政府・与党が制度改正を行う方向で最終調整に入ったことが25日、分かった。本業とはまったく関係ない金などの投資商品の取引を繰り返して売上高を増やし、消費税の還付を受ける手口が広がっているため、オーナーに還付されないように改める。
(2019/11/26 時事通信)
以前こちらの記事でも触れましたが、2020年度税制改正では海外不動産投資スキームとともに、消費税還付スキームの規制も盛り込まれることになりました。
今回の記事では、
『 消費税還付の仕組み 』
『 いつから消費税還付スキームは規制される? 』
『 今後できる対策、注意点 』
などを深掘りして解説していきたいと思います。
目次
【悲報】不動産の消費税還付スキームが終了へ、これからどうなる?
消費税還付の仕組み
まずは消費税還付の基本的な仕組みを理解しておきましょう。
消費税額の計算に関しての原則は、売上時に預かった消費税から仕入れ時に支払った消費税をマイナスして計算します。
【例:課税期間中の売上が1000万、経費支出額が800万円の場合】
1000万×10%-800万×10%=200,000円(消費税額)
厳密に言うと経費には消費税がかかるものとかからないものがあるため、それらを区分する必要がありますが、ここでは話をわかりやすくするために単純な計算にしています。
さて、上記をベースに考えると、仮に売上時に預かった消費税よりも経費支出時に支払った消費税のほうが多ければ、消費税は還付されることになる、というのは想像がつくのではないでしょうか。再度例を挙げます。
【例:課税期間中の売上が800万、経費支出額が1000万の場合】
800万×10%-1000万×10%=マイナス200,000円(消費税額)
このように受け取った消費税より支払った消費税の方が多い場合に消費税の還付が行われる、ということを前提条件として知っておいてください。
不動産投資における金地金スキームについて
さて、消費税が還付される仕組みがわかったところでこの章では不動産投資における消費税還付スキームの代表例?である金地金スキームについて理解していきましょう。
金地金スキームとは、消費税課税対象である金地金の売買を意図的に繰り返すことで消費税の還付を受けようとする手法です。
まず前提として、居住用不動産の賃貸事業(いわゆる大家業)において発生した経費とともに支払った消費税は、マイナス処理(仕入税額控除)することは不可能です。
理由は不動産(住宅用)の賃料などに課される消費税が非課税(※)だからです。
※参考→国税庁
消費税の仕入税額控除が存在する理由としては、経費の支出がある度に発生する消費税の累積による二重課税を防ぐことにあります。
わかりやすいように例として仕入れ額1000円の商品を5000円で販売した場合でみてみましょう。
この例では商品仕入れ時に消費税100円を消費者として納税しており、販売時に消費税500円を消費者から預かっている形になります。
この際500円をそのまま納税すると消費税を100円余分に納めることになってしまうため、500円-100円=400円、つまり販売時に納める消費税額を400円として二重課税にならないように調整しています。
上記が成立する前提条件は、事業者が消費者から消費税を預かっている状態である、ということです。
さきほど述べたように不動産の賃貸料収入は消費税が非課税です。
ということは事業者であるオーナーには預かった消費税は存在せず、二重課税を防ぐべき理由も見当たらないことになります。
その結果、仕入税額控除(マイナス処理)をする必要は存在せず、実際の取引において居住用不動産(賃貸アパートなど)の建設・購入に伴う消費税の支払いには仕入税額控除は適用できません。
さて、ここで逆の発想をすると、賃貸経営という非課税事業を行いながら同時に課税事業を行ってしまえば、仕入税額控除が利用できるのでは?と悪い考えが思い浮かびますよね?笑
この仕組みをうまく利用したのがこの章の冒頭で触れた、金地金スキームです。
金地金の売買行為は消費税の課税対象であるため、支払った消費税の一部は金地金の課税売上に対応する課税仕入として控除することができてしまいます。
上記を応用して、まず事業初年度に金地金売買を行い、同時にアパート物件購入の契約を行います。
この段階では賃貸事業はスタートしていないため、非課税売上(賃料収入)は0円です。
しかし、消費税の課税対象である金地金の売上は発生しているため、物件購入の際に支払った消費税をすべて金地金の課税売上に対応する課税仕入れとすることができます。
その結果、消費税の還付を受けられるというのがこのスキームの概要です。
規制はいつから?対策できることは?
このようにメリットだらけの金地金スキームを当然税務当局が見逃すことも無く、記事冒頭にある税制改正で規制されることになってしまいました。
今回の改正では課税売上がいくらあろうが、居住用不動産の購入時には一切の消費税還付が受けられないという厳しい内容となりました。
最後に規制の時期や、取れる対策についてみていきましょう。
消費税還付が受けられなくなる時期
今回の税制改正では2020年10月1日以後に引渡しを受ける居住用不動産から消費税の還付が受けられなくなります。
例外として2020年3月31日までに契約した場合は、引き渡しが上記期日以後になっても消費税還付を受けることが可能です。
ですので、これから物件を購入する方は残念ながら還付は受けられません。
では、2020年3月31日までに契約を終え、物件の引き渡しを待っているというオーナーさんが消費税還付を受けるにあたって注意することは何でしょうか?
消費税還付を受けるために
原則として消費税還付を受けるためには、消費税の課税事業者になる必要があります。
1000万円以上の不動産を購入した場合、購入後3年間は免税事業者になることが禁止される(※)、つまり強制的に3年間は課税事業者になります。
※参考→国税庁
この3年間に気を付けるべきことを下記にまとめます。
課税売上のバランスに気を付ける
不動産購入後の3年間で、課税売上の割合が50%以上減少した場合(※)、還付を受けた消費税を返納しなければならないというルールがあります。
※参考→国税庁
今回の改正では金地金の売買自体が禁止されたわけではないので、売上が足りない場合は引き続き調整として金地金の売買が利用できます。
また注意点として課税売上は事業初年度に計上するようにしましょう。
物件の買い増し&売却をしない
消費税還付を受けた法人と同じ法人名義で物件の買い増しをすると、家賃収入つまり非課税売上が増えてしまい、金の売買などで調整が必要になってしまいます。
もし物件の買い増しをするなら、別法人で購入するようにしましょう。
また、課税事業者の状態で物件を売却すると、建物分の消費税を納税する必要(※)が生じます。
※参考→国税庁
こうなるとせっかく購入時に還付を受けた消費税を、売却時にそのまま納税することになってしまいます。
特段の事情がなければ3年経過後に免税事業者に戻ったタイミングで売却するようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
海外不動産投資の節税スキームに続き、不動産の消費税還付スキームまで規制され、不動産投資における税務当局の包囲網が狭まっている印象を受けるかもしれません。
しかし、こうしたスキームは税務に関する小手先のテクニックに過ぎないと思います。
不動産投資においては綿密に練られた事業計画がもたらすキャッシュフローを最重視したスタンスがやはり一番ではないかと思います。
そのためにも日々知識のアップデートを怠らないようにしましょう。
今回は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
注:弊社メディアで紹介するコラム記事の内容は、あくまでも一般論やオープンにされている情報に基づいて、税の仕組や概念を説明するものであり、個別具体的な事象や最新の事例にはそぐわないケースがあります。情報の正確性についても細心の注意を払い、社内においても複数体制でのチェックを行っておりますが、万が一情報に誤りがある可能性はないわけではありません。コラム記事の情報は、くれぐれも読者の皆様の判断と責任のもとで参考にしていただき、皆様が抱えていらっしゃる個別具体的な事象に当てはめようとされるときには、必ず専門家にご相談くださいますようお願い申し上げます。弊社メディアの閲覧及びご利用により読者の皆様に生じたトラブルなどに対して、弊社は一切責任を負いかねますので予めご了承ください。
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