首都直下地震発生時の不動産市場への影響分析
・想定される震災被害と前提条件
首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)で関東大震災級の直下型地震が発生した場合、甚大な物的被害が想定されます。中央防災会議の想定では、都心南部直下地震(M7.3)の発生により全壊建物約17.5万棟、火災で焼失する建物約41.2万棟、合計で最大約61万棟もの住宅が倒壊・焼失しうるとされています。死者は最大2.3万人に達し、首都圏のインフラも大打撃を受けます(発災直後、都区部の約5割が断水し、下水も1割使用不能。鉄道は私鉄・JR在来線が1か月程度不通になる恐れ (特集 首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)‐内閣府防災情報のページ : 防災情報のページ – 内閣府))。このような壊滅的被害とライフライン寸断の下で、不動産市場にも大混乱が生じると考えられます。
この地震発生を前提に、住宅(戸建て・マンション)市場と商業用不動産市場それぞれについて、直後~1年の短期的影響と1~5年の中期的影響を分析します。東日本大震災(2011年)や阪神・淡路大震災(1995年)の事例データ )、政府機関の被害想定 、不動産調査レポートの知見などを基に、地域ごとの差異にも言及しながら予測を行いました。
短期的影響(発生直後~1年)
・住宅市場(戸建て・マンション)の変化
取引の停止と価格急落:
大地震直後、住宅不動産の取引件数は一時的に激減します。実際、阪神・淡路大震災の直後には被災地で土地・建物の売買が「震災直後から2か月程度、前年同時期と比べて激減した」と報告されています 。買い手は「被災地だから大幅に値下がりしているはずだ」と考える一方、売り手は震災前の価格を基準にしたいと考え、価格観に大きなギャップが生じるためです。このため発生直後は市場が凍結状態となり、実勢価格の把握も困難です。しかし、避難生活や資金需要からやむを得ず売却するケースも出始め、徐々に取引再開と価格調整が進みます。
被災地域の価格下落:
大規模に被害を受けた地域では、住宅価格の急落は避けられません。阪神・淡路大震災のケースでは、近畿圏の中古マンション成約価格が震災直後に前年度比で約16%下落し、その1年後には震災前の約79%(約21%の下落)にまで低下しました。2年後でも震災前の約76%と下落傾向が続いており、短期的な価格下落幅が20%前後に達したことが伺えます。首都直下地震でも、倒壊や火災が集中した木造住宅密集エリアなどを中心に、二桁%以上の大幅な値下がりが生じるでしょう。例えば液状化被害が甚大だった2011年の浦安市では、震災後にマンション価格が平均約5,000万円から4,000万円台前半へ2割程度下落し、地価も坪単価130万円前後から90万円程度へ3~4割低下すると見込まれました 。同様に湾岸部の埋立地や老朽木造住宅地では、短期的に20~30%規模の価格下落も想定されます。
安全な地域への需要シフト:
一方、被害の比較的軽微な地域では、住宅需要が一時的に流入し価格が下支え、または上昇する可能性があります。大震災に見舞われた市町村では、「津波被災を免れた高台の住宅地」に被災者の移転希望が殺到し、地価が約60%も急騰した例もあります。(高台への移住需要により、既存住宅地の地価が年率10%超で上昇を続けたケース)
首都圏でも、倒壊・火災が少なかった埼玉県内陸部や多摩地域など相対的に安全とみられるエリアでは、一時的に「地震の被害を逃れた住居」を求める動きが強まり、価格維持ないし上昇する可能性があります。実際、東日本大震災後、軟弱地盤の低地に比べて地盤の強い高台エリアで地価下落が小幅に留まったり、無被害地域で住宅需要が増えた事例があります (Impact of the 2011 earthquake on the real estate market in Tokyo)。ただし、この現象も一時的で、時間とともに仮住まいから元の地域に戻る住民も出るため、安全地帯の価格上昇も数ヶ月~1年程度で落ち着くとみられます。
住宅賃貸需給のひっ迫:
また、自宅を失った被災者の多くは当面賃貸住宅や仮設住宅に移るため、賃貸市場がひっ迫します。震災直後は空室が一斉に埋まり、家賃が上昇する傾向も報告されています(阪神大震災では、震災3か月後から賃料が上昇し始めた例 (①震災直後の家賃徴収状況家賃徴収不可の状況が実際あったのか …))。賃貸需要の高まりは投資用マンションなど収益不動産への関心を高める一方、自ら住む住宅を失った人々は売買余力を欠くため、持ち家取得需要は一時的に低迷します。このように短期的には「賃貸需要↑・売買需要↓」の構図となり、売買価格には下押し圧力がかかります。
投資マインドの冷え込み:
大口の不動産投資家や金融機関も当初は慎重姿勢を強めます。地震直後、株式市場が日経平均で6%前後急落したように、不動産市場でもリスク回避ムードが広がります。特に被害を受けた地域・物件は「次の余震や再来のリスク」が意識され、買い控えや価格ディスカウントが発生します。不動産価格指数で見ると、阪神大震災後には首都圏の中古住宅価格指数が約18か月にわたり下落基調を辿りました (What Investors Have Learned from the Major Earthquake -Psychological Changes from the Viewpoint of Stock Prices and Housing Prices- | Asia Research News)。
一方で、「大地震を経験した直後だから当分同規模の地震は来ない」と考える逆張り投資家が現れる可能性もあります。こうした投資家は、震災直後の底値で資産を買い叩き、復興後の値上がり益を狙うため、被災半年〜1年以内に徐々に市場に参入し始めるでしょう。実際、阪神大震災の被災地兵庫県では震災2ヶ月後には中古住宅価格が回復基調に転じ、大阪府より高い水準に一時上昇する現象も見られました。これは震災後の住宅不足を見越した需要や投資マネーの流入による一時的な持ち直しと考えられます。
以上を踏まえ、短期的な住宅市場の傾向を地域ごとに整理すると以下のようになります。
地域別の短期傾向(住宅):
- 東京23区(都心・城南・下町エリア): 木造住宅密集地で建物倒壊や火災が多発した地区では大幅下落(20%前後の価格下落)が避けられません。一方、耐震性の高いタワーマンションが建つ都心部でも、ライフライン寸断により一時的に居住困難となるため、一時的に価格下落圧力がかかります。ただし都心部では買い手の需要自体は根強く、底値付近では取引が動き出す可能性があります。
- 湾岸エリア(東京湾埋立地): 液状化や地盤沈下が発生しインフラ復旧に時間を要するため、急激な資産価値の低下が起こりえます。震災後に居住継続を断念する住民も出て、売り物件が増加して価格下落(地価▲30〜40%等 (震災で液状化現象を起こした土地の値段は? | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)))につながるでしょう。ただし建物自体は無事なタワーマンションも多いため、復旧後を見据えて安値で購入する動きが出る余地もあります。
- 埼玉県内陸部・多摩地域: 建物被害が比較的少なく、避難先・移住先として需要増が見込まれます。実需の下支えで価格維持~上昇となる可能性があります。ただし東京復旧が進めば一時的な流入需要は落ち着くため、過熱しすぎることはないでしょう。
- 神奈川県沿岸部(横浜・川崎など): 東京と同様に湾岸部では液状化や施設被害が起これば価格下落が顕著です。横浜中心部など高層ビル街でも、港湾機能停止やオフィス閉鎖で一時的に人口流出が起これば住宅需要が減退します。ただし都心からの避難先需要で一部郊外住宅地は底堅く推移する可能性があります。
- 千葉県湾岸部: 埋立地の多い千葉ベイエリア(浦安、市川、千葉市美浜区など)は液状化被害で資産価値が急落します。戸建て住宅地では住めなくなる区域も出て、土地は買い手不在で極端に値崩れする恐れがあります。一方、内陸寄りの千葉県北西部(松戸や柏など)は首都圏からの避難者流入で需給ひっ迫する可能性があり、相対的に安定した推移となるでしょう。
・商業施設(オフィス・商業地)の変化
商業活動の停止:
首都直下地震は日本経済の中枢機能にも打撃を与えます。都心部ではオフィスビルの機能停止や従業員の避難によりビジネス活動が一時麻痺し、小売店舗も商品供給網の寸断と避難勧告で休業を余儀なくされます。震災直後は消費も落ち込み、商業施設の売上ゼロ・テナント撤退が相次ぐため、その不動産価値は急低下します。例えば、被災地の地価動向調査では商業地の地価が震災前から約11%下落したケースが報告されており、住宅地の下落(約4%)より大きい減価となりました。商業地はテナント収益に価値が依存するため、顧客や雇用の喪失によって住宅地以上に厳しい価格下落に直面します。
都心オフィス市場への影響:
東京都心のオフィスビル群でも、耐震性の高いビルは倒壊こそ免れても、テナント企業の一時退去や厚生労働省の業務継続計画(BCP)発動による機能分散が発生します。大企業は首都圏外(大阪など)にバックアップ拠点を移し、一部は震災後もしばらく東京本社に戻らない可能性があります。その結果、一時的に都心部オフィス空室率が急上昇し、賃料・価格とも下落圧力がかかります。震災直後の混乱期には、新規のオフィス売買はほぼ停止し、再開しても買い手市場(売り急ぎ物件の叩き売り)となるでしょう。実需系の不動産投資信託(J-REIT)やオフィス開発業者も、一時は資金調達難や投資判断の先送りを強いられます。
商業施設・店舗の影響:
小売・サービス業の店舗物件も短期的には大打撃です。百貨店や商業ビルは建物被害や火災で休業・閉店が相次ぎ、収益見込みの喪失から不動産価値は下落します。被災地域の繁華街では「街並みの再建が進むまで、商業地の価値低下が長く続く」ことが指摘されています。阪神大震災でも神戸市中心部の商店街は長期間顧客が戻らず空洞化し、商業地の地価回復には時間を要しました。首都圏でも下町の商店街や繁華街が焼失した場合、短期的にはゴーストタウン化し、土地の流動性も失われます。一方、被害を免れた郊外型商業施設(ロードサイド店や物流センター等)は、都心から避難した消費者や被災地への物流拠点需要で活況となる可能性があります。震災直後は都内の購買力が周辺県に一時シフトするため、例えば埼玉・茨城・栃木などの大型店舗が一時的に売上増となり、それが不動産価格の下支え要因となるかもしれません。もっとも、こうした現象も一過性で、首都機能の復旧とともに通常の商圏に戻っていくでしょう。
投資家・企業心理:
商業用不動産に対する投資マインドも冷え込みます。震災直後はホテルやオフィスの収益悪化を見込んで、関連REIT指数や不動産株も急落が予想されます(実際、東日本大震災時には原発事故も重なり日経平均が一時16%下落 (What Investors Have Learned from the Major Earthquake -Psychological Changes from the Viewpoint of Stock Prices and Housing Prices- | Asia Research News))。不動産オーナーも保険金支払いなどで流動性確保が必要となり、優良物件でも売却に出されるケースがあります。ただし、一定期間後には再びリスクマネーが参入し始めます。震災後のがれき処理や復旧が進み将来像が見え始めると、「底値で投資するチャンス」と捉える投資家が増えるためです。金融当局も不動産融資のモラトリアムや金利引き下げ等で市場安定を図る可能性が高く、1年後までには商業不動産取引も徐々に再開していくでしょう。
地域別の短期傾向(商業):
商業施設市場についても地域ごとの差が現れます。
- 東京都心部: オフィス集積エリアは企業活動停止で空室率上昇・賃料下落。店舗も休業で収益悪化し、銀座や新宿などでも地価下落は避けられません。ただし政府・企業が復旧に全力を挙げるため、中長期の需要見通しは維持され、優良立地は投げ売りは少ないでしょう。
- 下町・ローカル商店街: 壊滅的被害を受けた商店街は無人化し、事業継続が困難な店舗物件は実質的に価値を失います。震災直後は買い手がつかず、取引停止状態が続く見込みです。
- 湾岸部工業・商業地: 港湾施設や倉庫が被災した湾岸工業地帯では、生産・物流停止で土地需要が減退します。工場用地や物流施設用地の価格下落が顕著になるでしょう。一方、被害を免れた一部埠頭や倉庫には復旧物資拠点として需要が集中する可能性があります。
- 郊外商業エリア: 埼玉・千葉内陸部など被害軽微な郊外では、被災者の流入や代替商圏化により一時的に売上増となる施設もあります。大型ショッピングセンターなどはテナント需要が増え、短期的には商業地価格が下支えされる可能性があります。

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