原油価格の代表的な指標であるWTI原油先物価格が史上はじめてマイナス値を出すなど、大荒れとなった2020年の現場相場。その後価格は急騰し回復を見せたものの、いまだ新型コロナウィルスの感染拡大以前の価格に戻っていません。これには新型コロナウィルス収束のめどが立っていないことに加え、さまざまな要因があるためと考えられています。
そうした先行き不安を抱えながらもオープンした2021年の原油相場ですが、取引する上でどんなポイントに注目していけばよいのでしょうか。新型コロナウィルスの影響はもちろん、OPECプラスやバイデン次期大統領の環境政策など、2021年の原油相場に影響をもたらすと考えられるトピックについて詳しく解説していきます。
目次
2020年原油相場振り返り
まず2020年の原油相場を振り返ってみましょう。北米における重要な原油指標であるWTI原油先物価格は年初61.18米ドルでスタートしましたが、新型コロナウィルスの拡大が進むにつれ世界経済に影響が出始めると下落の一途をたどり、4月20日には▲37.63米ドルと史上初のマイナス値を記録しました。その後回復をみせ、50米ドル前後までになったものの、いまだコロナ前の価格にいたっていません。
株式や商品などさまざまな相場において2020年は激動の年になりましたが、原油もその例外ではありませんでした。こうして歴史的な値動きは、どのような要因によるものだったのでしょうか。
新型コロナウィルスの影響で大幅下落
まず一番の要因は、何といっても新型コロナウィルスの感染拡大です。中国武漢発祥とされる新型ウィルスは最初こそ中国を中心としたものだったものの、徐々に感染拡大が広がり、世界各国で多数の死者が出る事態となったことから、各国では都市封鎖が相次ぎました。
市場ではこの事態による経済活動の低下が不安視されるようになり、株式や商品、また比較的安定していると考えられている金市場においても売り注文が広がっていきました。また都市封鎖による移動の低下、工場などにおける原油使用量の低下が予想されたことにより、原油もその例外でなく価格急落につながっていきます。
OPECプラス減産合意の影響
またこうした原油価格下落に拍車をかけたのは、石油輸出機構「OPEC」とOPEC非加盟の主要産油国から構成される「OPECプラス」の減産交渉が決裂したことにあると考えられています。
もともと供給過剰気味だったことに加え、新型コロナウィルスによる原油の需要減少による価格下落を重く見たOPECプラス加盟国は、減産で対応するべく交渉を重ね、2020年3月始めには追加減産が提案されました。世界中に原油が余っている状態であり、保管場所さえ苦慮する状況になっていることもあり、減産によって生産業者や精製業者の負担を軽くし、需要と供給を調整することで価格を安定させることが狙いでした。
しかしロシアがこの提案を拒絶したことから、減産体勢が崩壊。結局サウジアラビアをはじめとしたOPEC加盟国も一転して増産に転じたことから、原油価格は下落の一途をたどってしまったのです。
ロシアが減産提案を拒絶した背景には、アメリカが石油・ガスの増産による「シェール革命」によって国力増大を図っている点にありました。OPECプラスが減産しても、アメリカがシェールオイルを増産して市場シェアを奪われるだけではないかとロシア側は不安視したのです。アメリカによる経済制裁に苦しみ、政治的にも敵対関係にあるロシアとしては、原油価格を下落させてでもシェールオイルの増産に歯止めをかけたかったのです。
ロシアの対応を見たOPEC、中でも盟主であるサウジアラビアは交渉決裂ののち、増産を発表。これはサウジアラビアが減産による協調関係の構築を諦め、産油国同士で原油価格下落による混乱を共有することで、その後の再構築を望んだものと考えられています。その後市場は価格競争となり、4月20日には▲37.63米ドルというマイナス値をつけることになりました。
経済活動再開などを背景に価格高騰
しかしその後OPECプラスでは5月に減産を再開。また主要国が金融緩和をはじめ、市場には楽観的なムードが漂ったことから、WTI原油先物価格は反転し、6月には40米ドル前後までに回復しました。
加えて11月3日のアメリカ大統領選挙によりバイデン候補が次期大統領に選出されたこと、また製薬企業において新型コロナウィルスのワクチンが開発されたことなども後押しし、2021年1月現在において50ドル前後を推移しています。
2021年原油相場の注目ポイントは?
2020年は新型コロナウィルスの影響により、歴史的な急落と高騰を記録した原油相場ですが、2021年にはどのような値動きを見せることになるのでしょうか。特に注目したいポイントについて詳しく解説していきます。
新型コロナウィルスの収束によっては高騰か?
まずなんといっても注目されるのは、新型コロナウィルスの収束でしょう。ファイザーやモデルナといった製薬企業では急ピッチでワクチン開発が進み、有効率90%という新型コロナウィルス用ワクチンが開発されました。イギリスでは24時間体勢でワクチン摂取が進められ2021年1月現在で336万人が、世界最大の感染国とされるアメリカでは1000万人が接種を受けたとされています。
ワクチン接種により新型コロナウィルスが収束に向かえば、市民生活はもちろん、企業の経済活動も以前の状態に近づくことになり、それに伴い原油の需要も回復することになります。そのためワクチンの効果が確認された、特効薬が開発された、あるいは感染者数が減少し落ち着いてきたといった状況が見られるようであれば、徐々に原油価格も回復すると考えられるでしょう。
OPECプラスの動向
また引き続きOPECプラスの動向にも注意を払う必要があります。ロイターによるとOPECプラスの減産順守率は2020年12月の時点で99%となっており、OPECプラス加盟国が協調減産を引き続き続けていることがわかっています。
これは新型コロナウィルスの再拡大も影響した結果とも考えられていますが、今後もOPECプラスが原油の需要に対応し、前回のような交渉決裂にいたることがなければ、ワクチン開発などの期待感も助けとなって原油価格が上昇する可能性は十分に考えられるといえるでしょう。
バイデン次期大統領の環境政策
またまだ未知数ではあるものの、バイデン次期大統領の環境政策も注意しておくべきポイントのひとつです。民主党では環境政策を重視しており、バイデン次期大統領もまた化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を測る環境政策を示唆しています。
再生可能エネルギーを主要なエネルギーにするということは、アメリカ国内のシェール企業の淘汰に直結するため、バイデン次期大統領がどの程度政策を実行するか難しいかじ取りとなるといえるでしょう。しかし少なからず再生可能エネルギーへの転換は原油需要の減少につながるため、原油価格が下落する可能性はあります。
アメリカ国内では新型コロナウィルスや政治的混乱の収束が最優先課題であるため、バイデン次期大統領が就任早々再生可能エネルギー政策に全力で取り組む可能性は低いと考えられます。しかしその分新型コロナウィルスの収束後に原油市場が注目するポイントとしては、もっとも注目度の高いトピックといえるでしょう。
株価の動向
加えて注視しておきたいのが、株価の動向です。年末にかけてはバイデン次期大統領への期待感や、ワクチン開発のニュースなどによって、株式をはじめとした各種市場で期待感が高まり、株価が上昇しました。
当初再生可能エネルギーへの転換を政策に掲げるバイデン候補が当選確実となったことで、原油価格は下落するのではと考えられていましたが、実際には6.6%の上昇を見せています。これはアメリカ大統領選挙が無事におわる安堵感や、ワクチンの効果についての報道が相次いだことで、市場関係者の間に強い期待感が広まったためと考えられています。
市場ではこうした期待だけで実態を伴っていなくても、株式相場の上昇によって原油相場が上昇することもあります。そのため原油価格と合わせて各種株価指数も確認しておくべきといえるでしょう。
2021年原油相場の鍵はなんといっても新型コロナの動向
2020年は新型コロナウィルスの影響によって大荒れとなった原油相場ですが、2021年も新型コロナウィルスが大きな影響要因であることには変わりありません。ワクチンの効果や特効薬の開発といったニュースによっては、原油相場は急騰を見せる可能性もあります。ぜひここまでの内容を参考に、原油相場をチェックしてみてくださいね。